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みんな同じ愛のむじな その2



「女の子と飯食うのアイドルのイメージビデオ返却で不意にしたら、本末転倒じゃありませんか。頼む、頼むよ女の子と飯食う予定が皆無のけーご。六度目の一生のお願い」

一ヶ月ほど前、肌寒くなってきた十月の下旬。僕は学校近くのTSUTAYAへと、数少ない友人の中馬慎太郎の晴れ舞台に延滞料金を発生させないため、自分の目的なく、自転車を引きながら散歩感覚で向かっていた。秋晴れの清々しい空であった。

TSUTAYA二階の、レジ脇の返却ボックスに中馬のオカズを始末してやり、ついで、弥生が喜びそうな、玄人好みのお笑いを吟味していると、制服を着崩した姉崎涼子がこちらに歩いてきたので、なるほど、僕はこのために今日ここを訪れたのか、と思った。

姉崎涼子は二年からのクラスメイトで、綺麗で、無口で、友達のいない女の子だった。いや、いるにはいるのだけど、少なくとも僕が遠目から眺める限りは、彼女は誰と喋っていても、いつもつまらなそうな顔をしていた。なまじ顔が整っているだけに、変に特別扱いする、あの平凡な女の子たち特有の嫌な感じが、いつでもつきまとっていたのだ。

そして非常に耳あてが似合った。去年の冬もたまに見かけたけど寒がりなのか、姉崎涼子はこの季節になると登下校に耳あてをしてくるようになる。ふかふかして真っ白な、毛皮の耳あてだ。肩まで届く黒髪と、とても良く似合っている。

僕と目が合っても姉崎涼子は眉ひとつ動かさず、素通りして映画コーナーに消えた。数多の体育会系男子が彼女の暖簾に腕押ししては消化不良にフェードアウトしてゆく中、帰宅部で中肉中背の僕など、挨拶する権利すらない。

気怠そうな彼女の瞳や、ツン、と済ました唇、そして耳あてを焼き付けただけで儲け物な僕は弥生のためのDVDを適当に選び、そういえばと頭を冷ますためCDコーナーを訪れた。最近発売したアルバムだが、そろそろ、レンタルにも置かれるはずだったのだ。

あった。『そこかしこ』。リスに飛礫という、若手のスリーピースバンドの作品だ。今年の春、ドラマの主題歌に抜擢されたこともあり、主に二十代を中心に支持され、スマッシュヒットを飛ばし、ブレイクした。今は安定している。僕は安定する前が好きだった。

中一の時から好きだった。実は僕はインディーズの頃からハマっていて、CDも全部収集しているほどのファンだったのである。リスに飛礫、という変に残虐な名前からもわかるように、なかなか過激な歌が多かったのだ。要は、殺すとか死ねとか。

しかしメジャーにいってからは、日常の生活から滲み出る純粋で真っ直ぐな愛とか、いかにもな曲ばかり作るようになってしまい、失望したのだった。十二月の下旬なんぞ、あの、あの武道館、でライブをやってしまうらしいし。

すっかり借りる程度で、しかもながら聴きで充分になってしまったリスに飛礫の新譜を手に取り、数人の客が作っているレジ列に並ぼうとすると、タイミング良く、姉崎涼子もお目当ての映画を探し当てたようで、借りにこようとしていた。

いや、これは僕としてはむしろ、タイミングが悪かった。憧れの人の後ろに並ぶのは実に素晴らしいことなのだけど、逆の場合は、ただただ気まずいだけなのだ。

案の定、姉崎涼子は僕に一瞥をくれると、何の感情も示さず、無言で僕の背後に並んだ。憧れの人が自分のすぐ後ろにいる、僕のことなどひとつも興味がないのに。緊張と無念と、話しかけることのできない、振り向くことすらできない自分の弱さに、がっかりした。

前の前の人が、「お次のお客様どうぞー」と呼ばれて、僕も一歩前に、進もうとした。

進めなかった。後ろから腕を、掴まれたのだ。

え、と驚いて振り向くと、姉崎涼子の繊細そうで華奢な手のひらが、僕の腕にあった。

姉崎涼子は僕など眼中にないようで、僕が携えている、CDをじっと見ていた。

リスに飛礫の新譜だった。じっと、じっと見ていた。

「あ、姉崎さんも、飛礫が好きなの。俺、インディーズの頃から知ってるんだけど」

すると彼女は、ようやく僕の顔を見た。そして僕の質問に答えず、

「買いなさい」

と言った。

え、と僕が困っていると、

「いい? リスに飛礫は、買いなさい」

怒っているような声で、姉崎涼子が繰り返す。

「これはコーナーに戻しておくから。きみは奥のセルコーナーにいってて」

有無を言わせず彼女は、CDを持ってレジを離れた。僕は彼女の美しい後ろ姿や、真っ白な耳あては後ろから眺めても同じように純白であることに、酷く感動していた。

取り憑かれたかのようにセルコーナーに向かった。ラ行の、リスに飛礫の欄で、姉崎涼子を待った。レンタル品を返却してきた姉崎涼子は、「あ、まだ初回限定版売ってるじゃないPV付き。三千五百円。良かったね」と、心から僕を祝福した。

まどろんでいた僕は、我に返る。財布にはちょうど、三千五百円ほどしかない。

「通常版も、あるみたいだけど」苦肉の策で僕は、三千円の方に誘導しようとした。

「通常版も買うんだ」姉崎涼子が惚れ惚れした。

「両方買うとは、なかなかだわ。わたしは、それぞれ二枚ずつ購入したけど。初日に。予約して。ノベルティが欲しくて」

「ああ、そうじゃなくて。通常版しか、買えないんだ。お金がなくて」

「きみ、貧乏なのね。いくら持ってるの」

「三千五百円ぐらい」

「買えるじゃない」

「でもそうしたら、このお笑いDVDが借りれなくなっちゃう」

「今日は諦めればいいじゃない。なんか、下らなそうだし」

「わかった諦める。妹に頼まれてたんだけど、別に今日じゃなくてもいいから」

「きみ妹がいるんだ。いいな。わたしはひとりっこだから、羨ましい」

「姉崎さん、ひとりっこなんだ。な、なら、ペットとか飼ってたり」

「妹は大切にするべきよね。そうだな、じゃわたしが、五百円貸してあげる」

「え、いいの」

「いいよ。トイチだから、お早めに」

マルチ商法のように、それで僕は姉崎涼子から五百円の借金をして、飛礫の初回限定版を買い、弥生のお笑いDVDを借りた。お陰で全財産を失ったが、僕はお金じゃ一生、買えないものを手に入れることができた。

姉崎涼子の借りた映画は『クレヨンしんちゃん』だった。意表を突かれて僕が笑うと、ぶつよ、と凄まれた。そして「しんちゃん舐めないで。劇場版はおふざけが少ないの。これも普段はだめだめなお父さんが活躍して、泣ける話なんだから」と説明された。謝った。

階段を降りたり一階の本屋を覗いたりする間に、リスに飛礫の話をした。

「姉崎さんは、ライブにもいったりするよね。今度の、武道館とかもいくの」

「ああ、クリスマスとイブの。いかないよ」

「え、いかないんだ意外だな。やっぱりファンとして武道館はなあ、って感じだったり」

「そもそもライブに行かない。Zeepに一回、行ったくらい」

「一回だけ。そんなに好きなのに」

「ひとりで聴きたいんだよね。ひとりで、向かい合うように聴きたいんだよ」

「なるほどわからなくもないな。飛礫の曲ってそうだよね。うん。そうだね飛礫の曲って」

「サビだけみんなで歌ったりとか、嫌なんだ。カラオケで熱唱されるのも。顔には出さないけど、腸が煮えくり返る」

 僕は姉崎さんの前で飛礫を死んでも歌わないことを心に誓った。

「勿論Zeepに行った時は、生の迫力に圧倒されたんだけどね。それでも、ひとりでDVDをじっくり見るほうが、わたしは好き。そういう所は、本当のファンって言えないだろうな」

「いや、言えるよ。きっと言えるでしょ」

ほんとう? じゃあ、と姉崎さんが真面目な顔になる。

「きみさっき、インディーズの頃から知ってるとかいってたね」

「う、うん。『あなたの心を加湿させます』でハマって。買って。池袋のタワレコで」

「なのに今じゃ何処でも買えるのに借りようとしてるのは、あれなの。メジャーになってから丸くなっちゃったよなあ、とか、そういった類いの倦怠」

余りにも的確に分析されてしまって、僕は恥ずかしくなった。

「着いてきて」

「え」

「いまきみが買ったアルバム曲をすぐに聴かせたいから、着いてきて」

まさか家に招待されるのかと胸が高鳴ったのだけど、そこまで現実は甘くなくて、姉崎涼子が僕を連れ立ったのは、TSUTAYAを出て少しいったところ、お年寄りの方が休憩するための、地味で無個性なベンチだった。前にはドラッグストアと、千円カットの床屋がある。

腰を降ろすや否や、姉崎涼子が自分の耳あてを取り外し、はい、と差し出してきたので僕はびっくりした。思わず、「どうしたの」と訊いてしまう。

彼女はさらに、ブレザーの胸ポケットからiPodを取り出した。よく見ると耳あての片側のイヤーパッドにはコードが付いていて、iPodと繋がっている。知らなかった。振りをした。

「この耳あて、ヘッドフォンと一体化してるんだ」何せ、ロクに喋ったことがないのだ。

「そう。暖かくて、音楽もきけるの。耳たぶの寒さに弱いわたしには、最適」

「分離もできるんだ。便利な道具があるものだね」ずっと見てたから知ってるんだよ、とは言えず。

「人に貸すのは初めて」

何かしらでも、姉崎涼子の初めてが僕になるなんて、僕は信じられない。

「足の寒さとかも弱い方?」

「足は平気。耳とか、鼻の頭とか、顔周りのしぱしぱする寒さが耐えられない」

「しかし、いいなあ。機能も凄くて、デザインも、お洒落だし」

「うだうだしてないで早く耳につけてくれる? 早く聴かせて帰りたいの」

「あ、ごめん」

僕は心臓ばくばくになりながら、たった今まで姉崎涼子の小さな耳を包んだり、清楚な黒髪の上に乗っかっていたりした耳あてをつけた。桃の果肉のいちばん甘いとこみたいな良い匂いがして、くらくらしそうになる。

「ごめんね。ほんとは家でじっくりひとりで聴くのが、一番なんだけど。でもきみが今の飛礫を馬鹿にしながらわたしと別れるのは、腹立たしかったの」

僕は姉崎涼子の耳あてヘッドフォンを付け、姉崎涼子のiPodに内蔵された歌詞を熟視しながら、姉崎涼子のお薦めを四分二十三秒、聴いた。

そこで僕が、お世辞やお座なりではなく、久しぶりにリスに飛礫の楽曲に、しかも日常系の愛の歌に、感性を揺さぶられ、心から絶賛してしまったものだから、

そこまで反応されるとひいてしまう、と姉崎涼子はきゃはーと嬉しそうに笑い、気怠かったはずの瞳が、にっこり、と形容するのにふさわしいくらい細くなって口も開いて、真っ白で健康的な歯が覗け、左側にちょこんとある小さな八重歯が、むきだしになったから僕は挨拶どころか、メールをしたり、電話をしたりする権利を得たのだろう。

一世一代の大勝負をする十二月四日の金曜日、僕は自転車でTSUTAYAの前を横切りながら、そんなことを思う。田舎の所沢は交通量も少ないから、堂々と幅の広い車道を、走っていられるから好きだ。姉崎さんと違って、僕は寒いのが嫌いじゃない。籠に入れた通学鞄のひんやりとした感触とか、ペダルを漕ぐ度に湿度の低い透き通った空気の中でカラカラとチェーンが音を鳴らすのは、情緒があるから。CHROME HEARTS、もどきの十字架ネックレスも今や、僕の首周りでもどきなりにキラキラ輝いている。

iPodに繋がれたイヤホンから掠れ気味ながらも穏やかな、リスに飛礫の楠井秀人の歌声が聴こえてきて、深く、身体に染み入る。姉崎さんがあの時、進めてくれた曲だ。愛に溢れているようで、至る所、皮肉めいていて、それでもまあ、愛に溢れている曲。

校門を潜り抜け、学校についた。自転車を駐輪場に停めてから、引き返す形で枯れ葉を踏み締め、下駄箱のロッカーへ向かう。

「お早う」

ローファーから上履きに履き替えたり、iPodを停止してイヤホンを外したり、重いから置きっぱにしてた英和事典なんかをもたもた引っ張り出していたら、素っ気無く言われた。

「お、お早う」

僕が挨拶し返すと、毛皮の耳あてを外しながら、姉崎さんはうん、とかすかに頷いて、あっという間にロッカーでの身支度を整え、そのまま、僕を待たずにいってしまった。そのせいで僕は、紺ハイに包まれた、きゅっと締まった足首と少し短めのチェックのスカートの間に見惚れてしまい、さらにもたもたする羽目になった。
 
これが今日、ふたりきりで恋の映画を見に行く、クラスメイトに対しての反応だろうか。


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みんな同じ愛のむじな その1




その日は僕にとって、一世一代の大勝負が控えていた。

顔を洗って軽く寝癖を直し、厚着したスウェット姿のままリビングにいくと、既に家族は起きていて、母はキッチンの後片付け、妹の弥生はカーペットに寝っ転がってテレビの芸能ニュースなんかぼけーっと見ている。テーブルには三人分のハムエッグと付け合わせのキャベツの千切り、こんがり焼き目のついたシュガートーストと牛乳、と苺があった。

「お、勝手に起きてきた珍しい。そんな機能ついてたっけ」

のそのそやってきた僕を見て、母がエプロンを外しながら、皮肉っぽく驚く。

「別に、機械じゃないので」

「わあ、でました」

したらば弥生がテレビから目を放し、めっちゃ反応してきて、

「どっかん。でましたお兄ちゃんの伝家の宝刀、思春期らしい淡々とした否定。別に、機械じゃないので。なにそれ。寝起きだからってそんな不貞腐れた切り返しある? 今まで起こしてくれてありがとう。僕も晴れて今日から、大人の仲間入りです。とかってなんで言えないの。もうこんなのほっといてご飯食べようお母さん」

朝っぱらからめためたにダメ出ししてきた。

お笑い好きで人懐っこい弥生は小六のくせして、僕の数倍弁が立つ。

「食べよう食べよう。ほら、圭吾なにしてんの早く席ついてちょうだい」

「のろまうすのろまぬけ甲斐性なし」

仲良く並んでテーブル備えつけの椅子に座った母親と弥生に滅多打ちにされながら僕も遅れて、向かい合うように僕の専用席に腰を降ろそうとしたら、

「いただきます」とかって絶妙なタイミングでふたりが手を合わせ食べ始めたので完全に置いてきぼり。もう、いいようにされ過ぎ。

二十一歳と比較的早い年齢で僕を出産した母は今でも若々しく、僕が高校二年になるまで育ったというのにも拘わらず、まあ、当たり前のことなのだけど、まだ三十八歳とかだ。だからもう死語に近いけれども、「友達親子~」などとふざけても様になってしまうくらい、母は馬鹿みたいに弥生と仲が良い。そのせいで、父親のいない更科家では、唯一の男子のこの僕が、冴えない遊ばれ役として生活することを余技なくされている。理不尽だ。

弥生がまだ母親のお腹にいた頃、父はガンで亡くなった。四十八歳だった。僕はよっつとかそこらだったから朧気だけど、物静かで優しい佇まい、だった記憶がある。天真爛漫のはずの母親が取り乱して、呼吸ができないくらい咽び泣いていた記憶もある。

でもよく考えると、アパレル会社でバイトしていて、当時ハタチだった母親と結婚した時にそこの部長だった父親は既に四十三歳だったわけで、詳しくは聞いていないのだけどたぶん僕が『できちゃった婚』なのだろうし、ろくでもなかった親父、ということがわかる。まあ逝く直前に父が盟友の人事部長に頼み込んで、母はその会社に正社員として就職させて頂いたし、貯金もたくさん残してくれたから、家族思いではあったはずだ。

「あ、お母さん晴れのち曇り8℃。降水確率35パーセントだって」

芸能ニュースの右隅に都道府県ごとに表示されるきょうの天気が、我が地元の愛すべき所沢を含む埼玉になったのを、弥生が目敏く発見して読み上げる。十二月の初頭は寒い。

「うーん微妙だなぁ。昨日より降る可能性上がったね。洗濯物よろしく」

 母は働いているから、洗濯は夜にして、それから翌日の夕方まで延々と干す。取り込むのは子供たちの仕事なのだった。母も妹も下着が派手で、こっ恥ずかしい。

さて、切り出すには丁度良いかなあ、と企てながら僕は黙々と、シュガートーストにかぶりつく。あったかい麦の香ばしさと、とろけた砂糖の優しい甘さが、口の中いっぱいに広がる。

『人間に一番大切なものは愛で、その次が衣食住』というのが母親の持論で、だから母親は衣の仕事に就いたらしいのだけど、料理も上手だ。仕事を早く切り上げた時に作ってくれる、天ぷらとかハッシュドビーフとか青椒肉絲とか、和洋中、どの料理も非の打ち所がない。

「了解です任せといて責任持って全てやるからお兄ちゃんが。ひとりで」

「あ、今日は僕、新所沢に中馬たちと映画いくんだ。帰るの、結構遅くなるんだけど」

「どっかん。妹に家事を丸投げしても、後ろめたさのない冷血漢現る」どっかん、は弥生がご贔屓にしている、すべるのが持ち味のリアクション芸人の口癖だ。実にうるさい。

なんの映画観るのと母に訊かれたので、僕は邦画のコメディのタイトルを口にする。

「ああ、それ弥生も友達と行こうか迷ってたやつだ。結構脇役が、演技派の芸人さんで固められてるんだよね。映画館まで行く価値あるか、判断してきてよ」

「のはずだったんだけど、中馬がごねてさ。コメディはやっぱ洋画だろとかいって」

僕が洋画のコメディのタイトルを口にしたら、中馬君の得意の自己中ぷりが出たね、と面識のある母親が笑った。弥生も、洋画の方は関心がないようだった。

「夜遊びして補導されないようにするのよ。されたらされたで笑っちゃうけど」

「なんで笑っちゃうの」

「警察に厄介! 圭吾も成長したのねえって」

つぶした目玉焼きの黄味をからめたハムをもぐもぐしながら、母がしみじみする。見当違いもいいところだ、と僕
は牛乳を飲み干し、デザートの苺を咀嚼しながら、ご馳走様、と立ち上がって食器を片付ける。

お兄ちゃんが遊んでる間、弥生はシンデレラのごとく洗濯物干したりお風呂のお掃除してますからと嫌味を言う妹に頭を下げ、僕は制服に着替えたり、ワックスで髪を整えたり。

学ランの胸ポケットに、CHROME HEARTS、もどきの十字架ネックレスを忍ばせたり。








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みんな同じ愛のむじな プロローグ




鏡に自分の姿が映らなくなってしまった。

鏡だけじゃなく、写真にも。映像にも。川のせせらぎの反射にすら。景色や他人や植物はいつも通り、当たり前のように身近にあるというのに。

きっと誰でも、自分を見失ってしまう。常に自分の顔がわからないというのは、常に不安定ということだ。自分がどんな生き物なのだか、よくわからなくなる。

僕は僕の顔つきがうろ覚えになった。

僕のせいで同じ境遇に立たされた、少女もまた。

僕たちは向かい合う。お互いが鏡になる。

「きみは切れ長の瞳をしているね。だけども別段それが、男らしいというわけでも、格好が良いというわけでもない。ムスっとした時の唇は、遊びに入れて貰えない子供みたい。鼻の形は、いわゆる団子っ鼻に近いのかな。笑うと意外に、えくぼが深い。よく見ると全体的に、彫りの深い顔をしている、のかもしれない」

少女にまじまじと見てもらって、顔を描写してもらう。その丁寧な言葉のひとつひとつが、うろ覚えで次第に薄れていく自分の人相を、ピントを合わせるよう、再び確かなものに浮かび上がらせてゆく。僕も少女の補修に、最善を尽くすのだった。罪の意識を感じながら。

この物語はそんな僕と彼女の、臆病で、真っ直ぐな、愛を記録したもの。




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みんな同じ愛のむじな
いろいろありましてパイロット版を公開いたします。 ひまでひまでなにもやることなくて読書をしたいがお金もなくて でもプリントアウト用のA4用紙だけ腐るほど余って困っている人におすすめ 2011年6月3日 0:59
じこしょうかい

木堂椎

Author:木堂椎
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おとこ 
178せんち 72きろ

好きな食べもの もなか


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